扉が外れそうなので見に来て欲しい との連絡を受けて、サイレンは付いてないけど、ちゃっちゃと現地に向かいました。
”今回のタイトル 一体全体どうなってんだぁ~?” ってお尋ねの貴方 そこは社名にあります通り おサッシ下さい と直滑降でスベったところで本題に入ります。
今回御連絡を頂いた建物ですが、一年位前に出入口の親子ドアの親扉のフロアーヒンジ交換でお世話になっていました。フロアーヒンジとは、床下に埋設されたケースの中で孤軍奮闘し、扉を支持しながら開閉スピードを調整する建具金物で、一般住宅では見かけませんが、テンパドアなど重い扉に使われます。当時の交換の際は、ケースも腐食していたので、ケースごと交換となりました。ケースに支障がない場合は本体のみの交換で済むので、ケースの製品代だけではなく、ケース廻りのハツリ飛ばし・交換後の周囲の復旧といった作業が不要となるので、お財布にも優しく、工期も短くて済みます。
現地に着いてお客様に一声かけてから、外れそうだという扉へと向かいました。
対象は前回の親扉のつれあいの子扉で、この出入口を通らないと中に入って声を掛ける事が出来ないので、対象箇所の案内は不要でした。前回見た時は、未だもちそうだったのですが、ひょっとしたら最後の力を振り絞っていたのかもしれません。
子扉は既に相当ヤバい状態の様で、扉の内外をCBで挟み込んで、扉が外れるのを防いでいました。事故や怪我とならないように配慮しながら扉を外し、部品の交換を即決しました。築30年を超える建物で取付ける位置も雨掛かりとなる為、経年劣化は否めません。使用頻度によっても異なるようですが、前回交換したフロアーヒンジで10~20年、今回交換を即決したピボットヒンジの場合は15年位でのメンテ依頼が多いようです。
そもそも英語ではヒンジ(Hinge)と呼ばれる蝶番は、その姿が蝶々に似ており、羽と軸のふたつが融合して一組となる番(つがい)というのが蝶番(ちょうつがい)という名称の所以のようです。蝶番は仏具として日本に入ってきたといわれているそうです。
さて、ピボットヒンジとは何ぞや 例えるなら前回のフロアーヒンジがお兄ちゃんとするなら弟といったところでしょうか。フロアーヒンジよりも少し軽い扉に使われます。今回も対象は前回の親扉よりも軽量の子扉です。ピボットヒンジは軸吊り丁番・Pヒンジとも呼ばれ、扉の上端と下端に取付けて上下軸を支点に開閉をサポートします。皆さんがよくご存知の丁番は、人体で云うと肩とくるぶしに付いていて、扉を閉じればわずかに軸の部分だけがコンニチワしています。ピボットヒンジの場合は、脳天と足の裏に付いていて、今回は扉の真上と真下で軸を形成する中心吊ですが、軸を扉の外に出す持出吊もあります。
今回は、ヒンジだけではなく落しも交換しました。万有引力が示す通り、上で支えるよりも下の負荷の方が大きく、交換するのは下の部品です。ピボットヒンジが青息吐息の状態ですからフランス落しも被害を被っています。
またまた、フランス落しとは何ぞや 不確かですが、洋風建築でよく見かけるフランス窓(ガラス入りの両開き扉 ロミオとジュリエットが愛を語るシーンを思い浮かべて下さい)に付けた扉の閉状態を保持する為に用いた金物だからという説があるそうです。
フランス落しは本体と落し棒が一体のものと分かれているものがあり、一般住宅の室内木建具では上端と下端に取付けるので、落し棒の長さが一定の一体型が使われますが、今回のような扉の場合は本体を取付ける位置によって棒の必要長が異なるので、分割発注となります。こちらも丁番と違わずつがいの部品なので、本体に合うロッド棒を探さなければなりません。
既設の物に対してマッチする部品を探すのは一仕事で、本体の外形寸法・取付ビスピッチ・へりあき寸法、適合するロッド棒とその長さなど探偵さながらです。
それでも、時間をかけて使用に耐えうるスペックの部品を特定し、現場で交換し上手くハマった時の歓びは汗したものにしか味わえないのです。
お見えになった方がケガなどされたら と危惧されて、扉をCBで閉状態を保持し子扉の開閉を自粛されていましたが、子扉にもようやく新しいアシスタントが就任し、一安心のお客様でした。
扉を吊り込んでしまえば、世間様の目に触れることなくひたすら耐え忍ぶヒンジ。
たまには謝意を伝えてみては如何でしょうか?
きっと地下室で照れ笑いしてくれまョ!